事業所で生成AIをどう使うか、ルールづくりを話し合うケアマネジャー
この記事でわかること
  • 「どのAIツールがいいか」より先に決めるべきものがある理由
  • 事業所として決める3つのこと(入れない情報/確定は人/使いどころ)
  • ひとりケアマネでも作れる「AI利用ルール」の叩き台(コピペ可)
  • ケアプランをAIに作らせるのは是か非か、への現実的な答え
  • 「生成させていい業務」と「慎重にすべき業務」の分け方

「簡単な情報を入れるだけで、総合的な援助方針やニーズ、長期・短期目標をAIに作文してもらえないか」——現場の掲示板でも、こうした相談をよく見かけるようになりました。返信には、ケアマネ特化AI、汎用の生成AI、ノート型AIなど、いくつものツール名が並びます。ですが、そこで置き去りにされている、もっと大事な問いがあります。

「どのツールを使うか」ではなく、「事業所として、どう使うか」。ここが決まっていないまま各自が使い始めると、便利さと引き換えに、個人情報の事故や“考える力の空洞化”というリスクを抱え込みます。この記事は、ツール比較の前に事業所で決めておくべきことを、ひとりケアマネでも回せる形で整理します。

いま現場で起きていること

相談への返信を眺めると、ある共通点が見えてきます。多くの人がすでに何かしらのAIを使い始めている一方で、「事業所としてのルールは特に決めていない」という声がほとんどなのです。便利さが先行し、運用の枠組みが追いついていない——これが2026年時点の実態です。

🤔
「どれを使えばいい?」で止まる。ツールが多すぎて選べず、比較検討だけで時間が過ぎていく。
⚠️
「入れちゃダメ」しか言われていない。何がダメで、どうすれば安全かの“物差し”がなく、判断が個人任せになっている。
🧭
使いどころが曖昧。要点整理に使うのか、文書を丸ごと作らせるのか。線引きがないまま、なんとなく使っている。

ツールは日々増え、性能も変わります。だからこそ、変わりにくい“使い方の土台”を先に決めておくと、どのツールを選んでも慌てずに済みます。次の3つが、その土台です。

ツール選びより先に決める、3つのこと

① 「何を入れないか」の線引き(個人情報の物差し)

最初に決めるのは、便利な使い方ではなく「入れてはいけない情報」です。介護記録に含まれる病歴や心身の状況は要配慮個人情報にあたり得るため、安全性が確認できていないAIへ安易に入力するのは避けるべきです。ここで多い誤解が「氏名さえ消せば匿名」というもの。年齢・地域・具体的なエピソードが組み合わさると、個人が特定され得ます。

物差しの例

氏名・生年月日・住所・被保険者番号・事業所名は入れない。個人が推測できる固有のエピソードもぼかす。要配慮個人情報を含む書類そのものを扱うときは、非学習・国内処理・即時削除が確認できる専用サービスに切り分ける——という線を、A4一枚でよいので明文化しておきます。

② 「AIは下書き、確定するのは人」

2つ目は、責任の所在です。AIが作るのはあくまで下書き・たたき台であり、内容を確認して確定するのはケアマネ自身——この一線を組織のルールとして共有します。これは効率を落とすためではなく、専門職としての判断と責任を手元に残すための線引きです。掲示板でも「そのまま反映させることはほぼない、あくまで参考」という使い方が支持されていました。人が最後に確認する運用(ヒューマン・イン・ザ・ループ)は、安全なAI活用の共通原則です。

③ 「どこに使うか」の選別(生成 vs 転記)

3つ目が、意外と見落とされがちな“使いどころ”の選別です。同じAI活用でも、性質はまるで違います。

使い方向き合い方
要点の整理・要約長い会議録から論点を抜き出す◎ 補助として有効
文例・下書きの提案言い回しの候補を出す◯ 下書きまで。確定は人
“転記”(書き写し)紙の特記事項をテキスト化◎ 判断を伴わず効果大
“生成”(中身を作る)ニーズ・目標・総合方針を作文△ 専門判断は人が主役

ポイントは、「判断を伴わない作業ほど、AIに任せる効果が大きく、リスクが小さい」ということ。中でも“転記”は、中身を創作せずに書き写すだけなので、専門性を損なわずに時間だけを取り戻せる、もっとも“おいしい”使いどころです。逆に、ニーズや目標といった中身の生成は、AIに素案を出させるとしても主役はあくまでケアマネの判断であるべき領域です。

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いちばん安全でいちばん効くのは、
「特記事項の転記」をAIに任せること。

認定調査票の特記事項を、非学習・国内処理・即時削除でテキスト化。要配慮個人情報は付箋・番号で隠したまま送れて、最終確認はケアマネ自身。中身を創作しないから、専門性を損なわずに時間だけが戻ります。

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そのまま使える「事業所AI利用ルール」の叩き台

3つの土台を、事業所で配れる形に落とし込むとこうなります。難しく考えず、まずはこれをコピーして、事業所名や使うツールを書き足すところから始めてみてください。

〇〇居宅介護支援事業所 生成AI利用ルール(叩き台)
※ A4一枚・ひとりでも回せる最小構成。自事業所に合わせて加筆してください。
  1. 入れない情報を決める。氏名・生年月日・住所・被保険者番号・事業所名は入力しない。個人が推測できる固有のエピソードはぼかす。
  2. ツールは“非学習”を確認して選ぶ。入力が学習に使われない設定・契約かを確認したツールのみ使う。不明なものは使わない。
  3. AIは下書き、確定は人。出力はそのまま使わず、必ずケアマネが内容を確認・修正して確定する。
  4. 使いどころを分ける。要点整理・要約・下書き・転記は積極活用。ニーズ・目標・総合方針の中身は、AIの素案を参考にしつつ人が判断する。
  5. 要配慮個人情報を含む書類は切り分ける。認定調査票などをテキスト化する作業は、非学習・国内処理・即時削除の専用サービスを使う。
  6. 迷ったら管理者に相談。判断に迷う場面は各自で決めず、いったん止めて相談する。

「ケアプランをAIに作らせるのは是か非か」への答え

この問いには、賛否どちらの声もあります。「業務効率化として当然」という立場と、「ケアプランは利用者のもの。専門性はどこにいくのか」という慎重な立場と。どちらも本質を突いています。

現実的な答えは、二択ではなく“程度と使いどころ”にあります。アセスメント結果を入れて「自分が感じた課題と比べる」、ぐちゃぐちゃの会議録を要点にまとめる——こうした思考の補助としての活用は、専門性をむしろ高めます。一方、利用者から聞いた話をそのまま入れて「はい完成」とするのは、専門職の仕事とは呼べません。AIを“考える相棒”にするのか、“考えない言い訳”にするのか。その分かれ目を決めるのが、先ほどの3つの土台です。

厚労省もDXを推進、ただし

国は介護現場のICT・AI活用を後押ししています。ただしそれは「専門職の判断を置き換える」ためではなく、記録や事務の負担を減らし、対人援助の時間を増やすためのもの。効率化の恩恵を受けつつ、判断は人に残す——この両立こそが、推進の本来の趣旨に沿った使い方です。

まとめ:ツールは変わる、土台は変わらない

AIツールは今後も増え、性能も価格も変わり続けます。銘柄選びに振り回されないために、まず「入れない情報」「確定は人」「使いどころの選別」という3つの土台を、A4一枚のルールにしておきましょう。そして最初の一歩には、判断を伴わず効果が大きい“特記事項の転記”がおすすめです。専門性を損なわずに時間だけを取り戻せて、AI活用の手応えを事業所全体で共有できます。

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